チップ増強光分光法を用いた
新規半導体材料のナノスケール化学特性評価

ナレシュ・クマール

チューリッヒ工科大学 化学・応用バイオサイエンス学部    
上級研究員

ナレシュ・クマール

※ 所属・役職等は応募時点の内容です

研究概要

クマール氏の研究は、二次元遷移金属ダイカルコゲナイド※1と有機光起電力(OPV)※2デバイスという2つの半導体材料に対するナノスケールの解析に注目した点に特徴がある。二次元遷移金属ダイカルコゲナイドの研究では、単層MoS2※3とWSe2※4における励起子過程を調べるために、チップ増強光分光法(TEOS)※5を利用した。また、ハイパースペクトルチップ増強フォトルミネッセンスイメージングを用いて、単層のMoS2における励起子およびトリオン※6のマッピングにおいて、20nmという前例のない空間分解能を実証した。単層のWSe2については、TEOSとケルビンプローブフォース顕微鏡※7を組み合わせ、粒界の光電子挙動を50nmの分解能で明らかにした。OPVデバイスについては、TEOSと光伝導性AFM※8を組み合わせることで、STEOM※9と呼ばれる新しい手法を導入した。この革新的な手法により、20nm以下の分解能で、動作可能なOPVデバイスのトポグラフィー、化学組成、光電気特性を同時に評価することに成功した。
クマール氏の研究の意義は、新規半導体材料のナノスケールでの特性評価と理解の発展にある。同氏は二次元遷移金属ダイカルコゲナイドとOPVデバイスにTEOSを適用することで、従来技術の限界を超えるTEOSの能力を実現した。その発見は、励起子プロセス、励起子およびトリオン集団の不均一性、粒界での光電子挙動、OPVデバイスの構造物性相関に関する貴重な洞察を提供し、次世代オプトエレクトロニクスデバイスと有機光起電力技術の開発と最適化に大きく貢献するものと期待される。

1 二次元遷移金属ダイカルコゲナイド:遷移金属元素(モリブデン、タングステンなど)と硫黄・セレン・テルルなどのカルコゲン元素からなる、二次元的な層状構造を持つ化合物。
2 有機光起電力(OPV / Organic Photovoltaic): 有機半導体材料を用いて太陽光や光エネルギーを電気エネルギーに変換する技術。
3 MoS2:モリブデン(Mo)と硫黄(S)から構成される化合物。半導体の性質を持ち、光や電子の効率的な制御に用いられる。
4 WSe2:タングステン(W)とセレン(Se)から構成される化合物。半導体の性質を持ち、光や電子の効率的な制御に用いられる。
5 チップ先端増強光分光法(TEOS / Tip-enhanced Optical Spectroscopy):微小なサンプル領域において光の相互作用を増強することで高い空間分解能や感度を実現する。
6 トリオン:励起子が「電子とホールの2粒子の束縛状態」であるのに対し、トリオンは、励起子にさらにもう1つの電子またはホールが結びついた「3粒子の束縛状態」。
7 ケルビンプローブフォース顕微鏡: 表面の電位差や電荷分布を非接触で観察するための顕微鏡。
8 光伝導性AFM: 光伝導性を持つ材料の表面の電気的な特性を非接触で測定するための技術。
9 STEOM(Simultaneous Topographical, Electrical, and Optical Microscopy):トポグラフィー(表面形状)、電気特性、光学特性を同時に評価するための新しい手法。
1 二次元遷移金属ダイカルコゲナイド:遷移金属元素(モリブデン、タングステンなど)と硫黄・セレン・テルルなどのカルコゲン元素からなる、二次元的な層状構造を持つ化合物。
2 有機光起電力(OPV / Organic Photovoltaic): 有機半導体材料を用いて太陽光や光エネルギーを電気エネルギーに変換する技術。
3 MoS2:モリブデン(Mo)と硫黄(S)から構成される化合物。半導体の性質を持ち、光や電子の効率的な制御に用いられる。
4 WSe2:タングステン(W)とセレン(Se)から構成される化合物。半導体の性質を持ち、光や電子の効率的な制御に用いられる。
5 チップ先端増強光分光法(TEOS / Tip-enhanced Optical Spectroscopy):微小なサンプル領域において光の相互作用を増強することで高い空間分解能や感度を実現する。
6 トリオン:励起子が「電子とホールの2粒子の束縛状態」であるのに対し、トリオンは、励起子にさらにもう1つの電子またはホールが結びついた「3粒子の束縛状態」。
7 ケルビンプローブフォース顕微鏡: 表面の電位差や電荷分布を非接触で観察するための顕微鏡。
8 光伝導性AFM: 光伝導性を持つ材料の表面の電気的な特性を非接触で測定するための技術。
9 STEOM(Simultaneous Topographical, Electrical, and Optical Microscopy):トポグラフィー(表面形状)、電気特性、光学特性を同時に評価するための新しい手法。

研究内容紹介動画